日本と米国のサル対策比較にみる課題

サルによる農林業被害や生活被害、市街地での人身被害が増加しており、人との軋轢が深刻になっている地域が増えています。
今回は、日本と米国におけるサル対策の比較を通して、その課題を考えてみます。
日本におけるサル対策現状
日本においては、環境省は2024年にニホンザルのガイドラインを改定しています。現在の考え方は、単純な一律捕獲ではなく、
o 群れごとの把握
o 加害レベルの評価
o GPS・電波発信器などによるモニタリング
o 被害防除
o 追い払い
o 部分捕獲
o 選択捕獲
o 必要に応じた群れ全頭捕獲
o 地域個体群の保全
を組み合わせる「計画的管理」と呼ばれる考え方です。
日本のサル対策は、かなり科学的・体系的な方向に進んできていますが、「被害を減らすこと」と「個体群を管理すること」がまだ十分に一体化していない地域があるようです。
環境省によれば、比較可能な14府県では平成29年度から令和4年度にかけて加害群全体は948群から988群に増えていますが、特に問題の大きい「※加害レベル4・5」の群れは315群から275群に減少し、農作物被害額も平成26年度の13億円から令和4年度には7億円に減っています。
環境省は、加害レベル4・5の群れを優先的に減らすことを明確にしています。場合によっては群れの全頭捕獲も選択肢にしています。
※加害レベル
環境省のガイドラインにおける「加害レベル」とは、ニホンザルの群れが人間社会や農地に与えている危害・依存の程度を客観的に評価するための指標です。単に「サルが何頭いるか」ではなく、人間に対する慣れや行動の悪質さをもとにレベル0からレベル5までの6段階で判定されます。

加害レベル

米国におけるサル対策現状

一方米国では「サル対策」の位置づけが日本と違うようです。
米国では「サル=害獣」というより「外来種問題」だそうです。
日本のサル対策はニホンザル、ヤクザル等の在来種のサルに対しての対策ですが、例えば、米国本土のアカゲザルというサルは在来種ではありません。
米国の「アカゲサル対策」で特に有名なのがフロリダ州の シルバースプリングス周辺です。1930年代に観光目的で導入された個体が野生化し、1980年代には約400頭まで増加したそうです。その後オークロワー川流域などにも分布を広げていますが、捕獲・除去を実施したものの社会的な反発によって中止され、その後どう管理するかという問題が出ているそうです。
つまり日本の、「昔から山にいるニホンザルと、どう共存・管理するか」とは違い
米国では基本的に、「人間が持ち込んだ外来霊長類を、どう管理するか」というのが問題のようです。
その問題対策の中では「殺処分」「不妊化」「個体群管理」などを、単なる理念ではなく個体群モデル・経済的影響・社会的受容性などを含めて、実施を検討するというアプローチも考えられているようです。
日本の環境省のニホンザルのガイドラインと比較されるもので、米国農務省(USDA)は「Wildlife Services」という大規模な野生動物被害管理プログラムを展開しています。
そこでは、
o 農作物被害
o 家畜被害
o 人間の安全
o 財産被害
o 外来種
o 野生動物由来疾病
などを対象に、捕獲、忌避、個体数管理などの手法を科学的に評価しているそうです。

「追い払い」の現状について

一般的にサルは、追い払えばいいというものでもありません。
サルからすると、「人間が追ってくる」->「少し山に逃げる」->「人間がいなくなる」->「また畑に戻る」
となれば、何の解決にもなりません。
したがって「追い払い」で目指すべきなのは、追い払い回数ではなく、「追い払い後、何日間・何週間、その群れが集落に戻ってこなかったか」であると考えられます。
現在では「追い払い」からさらに進んで、GPSや電波発信器によるニホンザルのモニタリングを使用して「追い払い前の行動圏・追い払い後の行動圏・集落への接近頻度・農地への侵入頻度・群れの分裂・移動」の調査を実施して、それを「追い払い」や捕獲に活用する事例が環境省の鳥獣プロデータバンクで紹介されています。
また、海外での最近の動向を見ると、米国だけでなく国際的には、物理的な「追い払い」だけでなく、
①被害予防 → ②誘引物の除去 → ③物理的防護 → ④忌避 → ⑤個体群管理という統合的なWildlife Damage Management(野生動物被害管理)へ移っているようです。
米国農務省(USDA)も現在、野生動物管理手法についてリスク評価を行い、人的・環境的影響を検証しているようです。

サル対策の課題

重要なのは「サルの頭数を減らす」ことを対策の中心にするより、「問題を起こしている群れを特定し、その群れの行動を変える/必要なら群れそのものを管理する」方向をもっと徹底すべきであると考えられています。
もう一つ重要なのが「人間側の環境」です。このことはサル対策で、もっと重視しなければいけないことだと考えます。
サルが人里に来る理由は、「サルが増えたから」だけではありません。
例えば、「放棄果樹・柿・栗・野菜畑・生ゴミ・農作物の取り残し・放棄農地・集落周辺の藪」などによって、「人里に来ると簡単に食べ物が手に入る」という環境が成立すると、サルにとって人里の価値が高くなります。
すると、山 → 畑 → 集落 → 人家という行動がサルの世代を超えて固定化される可能性があります。従って従来の「捕獲+追い払い+防護柵」だけでは不十分で、「人里に来ても得をしない環境を作る」ことをもっと中心に据えるべきだと考えられます。
またサル対策は、「捕獲すべきか、かわいそうだから捕獲すべきでない」という二項対立ではなく、どの方法なら、いくらのお金で、何年間にわたって、どれだけ被害を減らせるのかという経済的な視点も重要です。

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